カリスマーズ見参!

[ 0 ] 2024年1月10日

 伝説のカリスマ創業者がこの世に戻ってきました!ソニー、ホンダ、ナショナル、オムロン・・・彼らなら、このジャパンにどんな再生策を講じるでしょうか?私の妄想がまた始まりました。

(10年前のお話ですが、今でも通じそうな気がして、ブログの奥から復活です)

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 カリスマーズがやって来た!

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 ダッタター、ダッタター。

 何やら遠くから昔なつかしき発動機の音とともに、かなり激しい排気の煙が見えてきました。

 どうやらホンダドリーム号にリヤカーをつなぎ、その上に数名乗ってこちらに向かって来るようです。

 バイクの運転手は油だらけの白いツナギに長靴姿、頭にはヘルメット代わりに手拭いを被った眼鏡のおっさんです。ガニ股乗りして少し怖そうな感じです。

 すくんだように立っていた私のそばに、いつのまにか彼らはやってきました。

心配そうな顔でつぶやく

 「オウ! 日本が、いや日本の製造業がヤバイって聞いて、俺たち天界から帰ってきたぞ!」

 見れば本田宗一郎さんじゃないですか!

 「ね〜君きみ、世界に誇るジャパンの電機業界が赤字続きとかリストラとかって冗談なんでしょう?」

 品のよさそうな井深さんが尋ねます、その後ろにはあの聡明そうなお顔の盛田さんが心配そうな顔をして私を見ています。

 「どうなっているんかいな?日本は。わしは未来を見通して松下政経塾をつくったんだが、塾生は何の働きもしなかったんじゃろうか?」

 松下幸之助翁が憮然とした顔でつぶやきました。

 少し後ろに、小柄な立石一真さんがいました。

 「私が造った『大企業病』という言葉が、現実にこんなにも猛威をふるってしまうとは・・・」

天界に帰るためには
 
 私は困ってしまった。私の妄想から生まれてきた、いやよみがえってきた彼ら伝説のカリスマーズ。

 (わたしはしがない超零細の経営者。。。彼らと話すなんて、まるで孔子さまやお釈迦さまとお話しするのに等しいことだ。。。なんと場違いな世界が生じてしまったのだろう。。。)

 (このまま、知らんふりして逃げてしまおうか)

 そんな私の気持ちを察したのか、本田宗一郎さんが私の耳元で囁いた。あのダミ声で。

 「な〜君、俺たちゃここに呼ばれた理由があるのさ。それを解決しないことにゃ天界に帰れねーんだよ。あきらめて、俺たちのガイドをしてくれよ。早く天界に帰って美味い酒飲みたいしさ」

 ささやき声で言ったつもりだろうが、えらく地声が大きい。みんなに筒抜けだ。

 「そうだ、早く私たちを帰したかったら、問題を早く解決させなさい」

 気の早いカリスマーズの面々は、もう一度リヤカーに乗り込みながら、私に向かって同じことを言う。

空を飛んでいざ東京へ

 さて、空飛ぶホンダドリーム号に牽引されたリヤカーに乗って、カリスマーズと私は東京にやってきた。

 寒風の中ブルブルふるえながら。でも爺さん元社長たちは元気いっぱい平気の平左だ。

 「ほう、相変わらず東京集中かい。それと相変わらず高いものが好きだな〜」

 「昔はウォークマンのヘッドホンを耳にかけるのがブームだったんだが、今はイヤホンになったようだな」

 「わしらオムロンが発明した現金自動支払機が、コンビニとかいう小売店にまで置かれるようになったんだな〜」
 
 「嬉しいじゃないか、ホンダの車がいっぱい走っているぜ。うちやトヨタさんは景気がいいらしい」

 「哀れなのはわしと井深さん盛田さんだよ。それと今日来なかったがシャープの早川さんもだが」

 幸之助翁がこらえきれないように空を見上げながらつぶやきました。

 「わしが一番つらいのは、一生面倒みると誓った社員をリストラせねばいけない状況となってしまったことじゃ。わしの考え方が不足だったのだろうかいの〜」

経団連に乗り込む

 経団連ビルはてんやわんやとなった。

 カリスマーズの話を聞こうと、大きな会社の社長さんやら政治家やら評論家やらがたくさん集まり、ついに椅子は撤去され、みな立って話を聞くことになった。

 はじめに話したのは盛田さんだった。

SONY盛田さんの話

 「私は、みなさんに私たちSONYの創業のときをもう一度思い起こしてほしいんだ」

 「私たちは設立趣意書にこんなことを書いたんだ」

一、 真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設

 「それはこんなふうに続けたんだ」

「一、不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置き、いたずらに規模の大を追わず

一、 経営規模としては、むしろ小なるを望み、大経営企業の大経営なるがために進み得ざる分野に、技術の進路と経営活動を期する

一、 極力製品の選択に努め、技術上の困難はむしろこれを歓迎、量の多少に関せず最も社会的に利用度の高い高級技術製品を対象とす。また、単に電気、機械等の形式的分類は避け、その両者を統合せるがごとき、他社の追随を絶対許さざる境地に独自なる製品化を行う

一、 技術界・業界に多くの知己(ちき)関係と、絶大なる信用を有するわが社の特長を最高度に活用。以(もっ)て大資本に充分匹敵するに足る生産活動、販路の開拓、資材の獲得等を相互扶助的に行う

一、 従来の下請工場を独立自主的経営の方向へ指導・育成し、相互扶助の陣営の拡大強化を図る

一、 従業員は厳選されたる、かなり小員数をもって構成し、形式的職階制を避け、一切の秩序を実力本位、人格主義の上に置き個人の技能を最大限に発揮せしむ

一、 会社の余剰利益は、適切なる方法をもって全従業員に配分、また生活安定の道も実質的面より充分考慮・援助し、会社の仕事すなわち自己の仕事の観念を徹底せしむ。

 「もう一度読むだけで、すべてわかるだろう。今、愉快な工場かい?規模の大を追わずかい?」

 「跡を継いだ経営者諸君は、効率とか金銭とか株主とかばっかしが大事と思っちゃいなかったかい?」

 →SONYと電気座布団

松下幸之助さんの話

 つづいて袴姿に杖をついた坊主頭の松下幸之助翁が話し始めた。
 
 「ワシの会社はよく『マネシタ電機』と揶揄されたもんじゃよ。しかしワシにはそんなことなどどうでもいいという信念があった」

 「それは、創業時、水道の蛇口をひねればだれでもが水をたらふく飲めるように、便利な家電品を安く大量に生産し国民を豊かにしたいという大きな夢があったからじゃ」

 「さらに嵩じて『松下政経塾』なるものもつくって大志あふれる政治家を育てようと考え実行した。今じゃ口舌の徒養成塾みたいになってしまっちょるようだがな。。。」
 
 「ワシの遺伝子を継いだのは今の松下(パナソニック)ではなくて、お隣のサムスンのようだ。よいところをすばやく真似して自社製品に応用するスピードと執念は昔のナショナルそのものだ」

 「彼らの泥くさき執念こそが、今日本が失ってしまった一番のものじゃ。君らはかっこつけすぎだ。経営も、製品も」

オムロン立石一真さんの話

 「オムロンと聞けば今は健康産業と思う人が多いので驚いてしまった」

 「まさか、制御機器メーカがオムロンの主力だとは誰も知らないのだろう。さらに昔はSONYと並ぶベンチャーの草分けだったことを知る人も少ないのだろう」

 「私の会社が左前ということではないが、カリスマ仲間に誘われてここに来た。一つだけお話ししたいことがある」

 「私の出発はレントゲン用のタイマー二個から始まった。その後制御機器メーカーとして世界的になったが、サイバネティクスに興味を持ち、多様な発明をしてきた」

 「そんな私を支え続けてきてくれた妻を癌で亡くした。私は慟哭した。なんとか技術の力を医療健康に役立てたい、それが妻の苦労に報いることだと考えた。皆にはバカにされたが『東洋医学物理療法自動診断機』なるアナログ・コンピュータというものまで作った」

 「皆に話したいのは、私のこのような人間としての真摯な思いが今、オムロンの主力の一つに育ったということなのだ」

 →先人の独走的な独創

本田宗一郎さんの話

 油で汚れたツナギのまま堂々と、しかも笑みを浮かべて本田さんが大きな声で話し始めた。

 「俺は、学もなかった。金もなかった。だけど夢があった。仲間がいた」

 「自転車に発動機を付けて自動で走らせたかった。次はバイクだ、どれよりも速いやつな。その次は四輪だぜ。空冷エンジンなんかも積んだな。エヌコロなんて軽は零戦みたいだったぜ。よく横転したけど」

 「俺がやりたいこと、笑顔になれることを、つまりわがままやったのさ。苦労覚悟でな」

 「俺は、他のカリスマには悪いけど幸せだよ。今んところ。なぜって、俺なみのワガママや夢を語るやつがホンダにまだいるらしくて、船とかジェット機まで造ったていうじゃね〜か。嬉しいよ。優等生だらけじゃなくてさ。挑戦的でさ」

 「金なんてどうでもいいだろう。よいもの造りゃふえるんだし。金中毒になったら物造りはおしまいだよ。大事なのはワクワクする心だよ。仕事も人生も」

 「俺の最終学歴はホンダ油まみれ学校卒だ、そしてその初代校長だ。企業は働きながら勉強する、教える学校だぜ」

 「何を教えるかって?」

 「『夢』を持つ楽しみと『夢』に向かう意欲を与える学校だよ。後は一人で何とかなるさ」

 「今の経営者が俺たちと違うのは、俺たちが常に背中に大事にしょっていた『夢』を後ろ姿で見せていないことだぜ」

 「「国」とかに頼るな!エライ奴に迎合するな!金におぼれるな!」

 →「負けるもんか」というCM

カリスマーズ天界に帰る

 経団連ビルは熱気に包まれていたが、しわぶき一つ聞こえない。

 し〜んとして、しかし目はらんらんとして、一言も聞き漏らすまいという人間だけだった。

 カリスマーズたちは、多少名残惜しそうにして再びリヤカーへ乗った。ホンダドリーム号の運転はやはり本田宗一郎さんだ。

 やがて経団連ビルの中は、ガソリンの排気ガスの匂いと白煙にみたされた。

 決していい匂いではなかったが、だれもが何か懐かしきものを感じたのだった。
 

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