リスクを小さくする経営

[ 0 ] 2021年10月28日

当資料は、2021年1月20日、スマイルアップ合資会社主催のオンラインによる「情報戦略会議vol9 リスクを少なくする経営」において、私が講演した内容に一部追加し、文章にまとめたものです。

(自己紹介)

1953年、宮城県小牛田町(現美里町)に生まれ、現在宮城県涌谷町に住んでおります。様々な職業経験の後、1990年に株式会社レッツを創業し、様々な業種の企業でIT化のお手伝いをしてきました。1996年、建設業向原価管理ソフトを開発し、現在その分野で日本一のシェアとなっております。2018年9月、株式会社レッツの代表取締役会長を退任し、現在相談役を務めております。また、ノボ・プラン代表、スマイルアップ合資会社顧問として、中小企業の経営コンサルティングにも携わっております。趣味は読書、映画、鳴子温泉めぐり、低山徘徊、妄想など。好きな時代は江戸時代。

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▶ノボ村長の開拓日誌 ▶みんなの独創村 ▶勉強中だよ!レッツくん

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リスクを小さくする経営

目 次

1.リスクとは何か

1-1  「危険」を表す言葉は三つあり

1-2  リスクの語源

1-3  リスクとの向き合い方

2.リスクを小さくするとは

2-1  リスクを楽しめるようにする

2-2  リスクを少なくする

2-3  人事管理を工夫する

2-4  ムリをなくす

3.経営シミュレーターについて

3-1  最大のリスク管理は「資金繰り」

3-2  経営者のナビゲーター

4.経営者とリスク

4-1  最大のリスクは自分自身

4-2  経営者は未来を創る

4-3  コロナ禍の今だからこそ

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1.リスクとは何か

1-1 「危険」を表す言葉は三つあり

一般的に、「リスク」を私たちは「危険」と訳します。ところが英語においては次の三つの言葉に分けています。重大なものから順に記します。

hazard:偶発的で避けられない危険(天災、パンデミック・・・)、その可能性

danger:重大な危険、致命的な危険

risk:一般的な危険、その可能性

ハザードマップとかバイオハザードなどの言葉が示すとおり、3.11の地震や津波、コロナパンデミックはhazardです。これは逃げる、避けるしか手はありません。

同じ3.11でも原発事故は重大な人災でありdangerにあたります。最近起きた薬品混入事件や昨日の高速道路多重事故も重大かつ致命的な危険であり、この範疇に入ります。これは徹底的に予防するか、最初からしないかのどちらかです。

日常生活や仕事において、制御がある程度可能な危険とその可能性がriskと呼ばれます。ところがriskにはもっと別な意味もありました。

1-2 リスクの語源

最近読んだ「会計の世界史」という本で私はリスクの語源を知りました。リスクの語源は「リズカーレ」というラテン語で、その意味は「勇気をもって危険に挑戦する」ということらしいのです。15世紀イタリアでは大海に乗り出す船乗りたちを賛美する言葉として大いに使われたそうです。

時代を経て「リスク」から挑戦という意味が希薄になり、「危険」という意味だけがクローズアップされることになったようです。しかし、英和辞典を調べると、今でも「危険」のほかに「挑戦」「冒険」「賭け」という意味も載っています。

1-3 リスクとの向き合い方

リスクの語源を考えると、リスクとはまさに「経営」そのものだと言えます。なぜなら、経営とは常に挑戦であるからです。リスクをわかりやすくたとえると西部劇のカウボーイたちの「荒馬慣らし」だと思います。野生の荒馬から振り落とされれば怪我をするかもしれない、しかし、乗りこなさなければ良い馬は手に入らないということです。

あるいは経営というコインの裏表と言えるかもしれません。表は成功、裏は失敗。しかし、コインと同様に、いつでも反転のチャンスはあります。

リスクは経営から切り離せないものであり、良くするも悪くするも私たちの向き合い方次第ということになりそうです。要は、リスクをなくす避けるではなくて、リスクをいかに挑戦や冒険に転化していくかが、経営者の考え方として約にたつと思います。

 

2.リスクを小さくするとは

2-1 リスクを楽しめるようにする

リスクの本質は挑戦や冒険であり、そこには危険が伴ないます。しかし、挑戦や冒険こそが経営のだいご味でもあります。リスクからその危険性を減らし、挑戦や冒険として楽しむためには「失敗できる範囲」を知ることが必要です。

どんなに困難な登山に挑む人たちも、ベースキャンプに戻ってこられる範囲で未踏峰や氷壁などに挑戦します。経営も同じです。失敗しても戻ることができる範囲のなかで冒険をすれば、それは危険ではなく「未来への挑戦」となります。

元経理担当役員だったある方が、退職後毎年夫婦で旅行をしています。その方は綿密なスケジュールをたてて旅行をするそうです。同行した私の友人が「それじゃ窮屈で、自由がなくて楽しめないのでは?」と聞いたら、こう答えたそうです。「いや、綿密に計画してできた余白に本当の自由があるのです」

私もその通りと思いました。自由とは思っていても、列車時間などに左右されて結局何もできなかったということもありえます。必ずしなければならないこと、突発的なことをできるだけ排除した後に生じた余暇時間、そこでこそ真に自由な時間を満喫できるはずです。

経営でいうならその余白、つまり「失敗できる範囲」とは、余剰の「利益」や「現預金」の範囲内ということです。

大事なことはその範囲内でリスクをとらなければ、企業の明日は暗くなるということです。ですから範囲を見極めること、それを拡げること、その範囲内で必ず冒険をするとが経営者としての責務であると言えるでしょう。

 2-2 リスクを「少なく」する

リスクを「小さくする」と「少なくする」では意味合いが多少違います。全体としてリスクを小さくするにはリスクを少なくすることが大事と思います。

リスクを少なくするというのは、リスクの発生源を少なくするということです。製造、営業、人事、契約、工事、管理、あらゆるところにリスクがあります。危険なだけの不要なリスクはできるだけ少なくし、経営に不可欠なリスクだけに集中することが大事です。

取引先や顧客との契約のリスクを減らすために弁護士と顧問契約する、税務上のリスクを避けるために税理士と顧問契約する、資金繰りのリスクを軽減するために不要な金でも銀行から借りておく、保険をけちらないなど、リスクの波を避ける堤防を築いていくことが大事と思います。

経営者によっては、それらをすべて無駄と思う方も多いのですが、堤防を築いて安心を買うことこそ、最も大事なお金の使い道だという認識が必要ではないでしょうか。冒険や挑戦は、まず陣地、ベースキャンプをしっかりさせてからです。

2-3 人事管理を工夫する

(中期的全体成果主義)

「人は石垣、人は城」です。大事な時に頼りになる社員であってもらわなければ困ります。良いときも悪いときも社長と心を一つにして問題や課題に向かってくれる社員が必要です。

人事面でのリスクを減らすには、ジェットコースター的評価・待遇を避ける人事管理体系をつくるべきと思います。それは、個別成果主義をやめて全体成果主義にするということです。

後に説明する「経営シミュレーター」で数年先のデータを入れるとき、どうしても社員の昇進昇級などを設定する必要が出てきます。その数字を一人一人設定すると、彼らをどう育てなくてはならないかを経営者が考えることになります。

企業において大事なことはバランスです。年功序列が乱れることは人事バランスを悪くします。実質を伴なった年功序列システムをいかに維持するかは、教育者でもあるべき経営者の責務です。

3~5年の中期計画でプロットされた人事テーブルを社員各人にある程度公開し、自覚を高めていきます。中期的な見通しさえあれば、社員は結婚も、持ち家も、出産も安心して踏み切れますし、城である会社を守る意識も高まってくるのです。

どんなに優秀な人でも、今年好調来年不調ということは必ずあります。そのたびに上げたり下げたりでは本人も会社も大変です。また一度上げた給料を下げるということはとても難しいものです。ですから個別の成果は賞与で評価するのが良いと思います。日本的雇用制度は世間で非難されがちですが、中小企業にとっては有効であると私は強く思います。

大企業と違って、中小企業に優秀な人が次々に入るということはありえません。入った人を丁寧に育てていくしかないのです。

(業績比例の賞与設定)

賞与には業績の変動に対するリスクヘッジと、社員の士気向上の役目があります。年度方針において、業績比例の賞与額を社員に告知するのは大変有効です。賞与支給の基準が明らかであれば、社員は会社に対してより信頼感を持つことでしょう。

年度初めに、賞与支給月数(年間合計)を5種類ほど入力してシミュレーションを行います。次に、各賞与月数で予定利益を達成できる売上予算をシミュレートします。各売上高に応じた賞与月数を支給すると社員に告知します。

例として標準支給月数を年4ヶ月と定めます。最低支給月数は「1」、最高支給月数は「5+α」として5段階設定します。上期が悪くても下期で挽回するケースもあり、その逆もあります。その差を下期の賞与で調整する基準にします。

上期の賞与では、よっぽど業績が悪い場合は「0」ですが、業績が良い場合でも標準の「2」にします。通年の業績から下期の賞与で調整します。上期が「0」でも下期で挽回すれば下期の賞与は「4」以上となります。

この方法により、売上目標を達成、未達成の1か0かではなく、範囲で設定できるようになります。そのため経営や営業の無理が少なくなり、経営が中長期的な視点に変わっていきます。それは企業の持続という面で大いにメリットを生じさせていくことでしょう。

2-4 「ムリ」をなくす

(ムリが危険を増大させる)

リスクを小さくするためには、あらゆることから「ムリ」をなくすことが最も大事です。「ムリをしない」ではありません。ムリをなくせば結果的にムリをしないですむのです。ですからムリをなくすために一時的に行うムリは当然ありえます。

ムリな販売、ムリなノルマ、ムリな目標、ムリな計画、ムリな人使い、ムリな資金繰り・・・すべての業務においてどうやったらムリを取り除けるのかを考えます。

 問題が起きた場合は、その原因を「どこにムリがあったのか」に求めていきます。ムリをなくすしくみに改善していきます。ムリの悪影響はムダやムラよりもはるかに大きいものです。ムリが危険を増大させるのです。

私はリーマンショックのとき業績が大いに低迷し、その後の経営について深く考えることになりました。そのときに悟ったのが「ムリを徹底的になくす」ということでした。

具体的には目標の廃止(代わりに「見込」)、ノルマの廃止、業績の早期予測、売上より受注優先、固定客化の推進、ブランディングの推進、業績変動に対応した経営体制、あらゆる数値管理の徹底などです。すべては未来行き貨物列車への荷の積み込みであるというイメージを共有し、全社的チームワークを図りました。

最近、コロナ禍で打撃を受けている星野リゾートの経営者が、社員に自社のの「倒産確率」を毎月公表することにしたという記事を読みました。全社員が経営者と同じ危機感をもって対処してほしいという経営者の思いからでしょう。社員の意識が変化したと語られていました。

数字で示されなければ人は納得しません。あらゆることを数値化して、できるだけ社員に公開することが大事と思います。

(トライアングル体制をめざす)

ジョンソン・アンド・ジョンソン社は世界的エクセレント企業です。その創立者がつくった経営理念「我が信条」に私はたいく感銘し、2005年に経営理念を一新しました。その際に同社のユニークな人事システムを知りました。

それは「トライアングル体制」です。あらゆる仕事において同質の仕事ができる人を3人つくる、というものです。あらゆる仕事というのは、掃除の仕事から経営者の仕事まですべて含まれるということです。

トライアングル体制ができると人的リスクが大幅に軽減します。さらに個人にとっても、いつどれだけ休んでもかまわないというメリットが生じます。

この体制は、人を増やすのではなく、各人がマルチプレーヤーとして(現場なら多能工、多機能工)兼務していけば中小企業でもつくっていけるはずです。

 

3.経営シミュレーターについて

3-1 最大のリスク管理は「資金繰り」

今さら言うまでもなく、経営の最大のリスクは「金が足りない」ということです。金さえあればそれが貯金であれ、借入金であれ、時間を稼いで立て直しもできます。経営の要諦は、「金を儲ける」ではなくて、「常に金が足りる」ことにあると私は思っています。

私事ですが、創業の頃は何もかも一人でしなくてはなりませんでしたから、銀行やら親兄弟やらカードやらで、とにかく「使わない金」をできるだけ確保しました。当座必要な分だけ用意するという考えは私にはありませんでした。堤防を築くつもりで金を用意し、営業に集中したのです。

その後は、銀行から天気(業績)の良いときに借りる、借り換える方針に変えました。利息なんか資金確保の手数料と思って気にもしませんでした。その後業績が安定してからは、中期シミュレーションによって、資金をショートさせない上手な調整に変えました。

3-2 経営者のナビゲーター

(経営シミュレーターはなぜ必要か)

大海原を渡る船長は、六分儀や双眼鏡で現在地と進むべき方向を見極めます。私たちも車で初めて行く場所はナビがないと不安です。このように、経営者は現在地と未来に続く道を知るための道具がないと、その役目を十分には果たせません。

ナビの役目を果たすものが「財務会計」とそれを基にした「経営シミュレーター」です。しかし、財務会計は1年ごとの管理です。1年経つとPLはリセットされて、心機一転再スタートとみんな思うのですが・・・、資金繰りはリセットできないのです。今年度の業績が翌年度の資金繰りに大いに影響するのです。

法人税の予定納税は前年度の1/2、消費税の予定納税は6/12から11/12です。概算労働保険料は前年度の賃金総額で計算されます。前年度入社した社員の在籍月数が増えて人件費も増えます。昇給もあります。法定福利費は毎年105%づつ増加していきます。

今年度の業績が良かったと手放しでは喜べないのです。資金繰りはサインカーブのように翌年度とセットなのです。ですから複数年度を連続管理できる経営シミュレーターが必要になるのです。

 (経営シミュレータの考え方)

経営シミュレーターは、財務管理のデータを基にします。現預金残高を正確に把握できるのは財務会計だからです。

経営シミュレーターはExcelで最低24カ月の残高試算表を連続して管理できるようにつくります。1年決算を2年決算にするようなイメージですね。

損益計算書ならだれでもすぐにできます。しかし貸借対照表のほうは最初から正確に予測式を設定するのは難しいでしょう。はじめは、実績を参考にしながら自分で予測値を設定していくことになると思います。

慣れてくると様々な勘定科目と現預金の増減の関係がなんとなくつかめてきますので、日々改良していけば、現預金残高予測の精度もあがっていきます。

いずれ24カ月を36カ月、60カ月に拡張していくと、中期経営計画のたたき台としての経営シミュレーターになっていきます。

 (経営シミュレーターの使い方)

シミュレーションでは、まず現状のままが続いた場合、翌年度以降の業績はどうなるか、資金繰りのショートが起こるとすればいつかなどを把握します。次にありたい姿を思い描きながら、達成可能な数値をプロットしていきます。その際、決してムリな数値ではいけません。

どうしても達成が難しいという状況が出てきますが、あきらめずシミュレーター上であれこれ試行錯誤します。そうすると、不思議と思いがけない解決方法が見えてきます。それは自分の頭だけで考えては決して発見できないものです。

運用の要点は、毎月予測値を実績値に置き換え、未来の変化を見ることです。その変化を見て、翌月の行動を変化させ、場合によってはシミュレーターの数値(計画)を柔軟に変更していきます。

経営シミュレーターについては、私がつくった「バタフライ・シミュレーター」をダウンロードして参考にしてください。(巻末参照)

 

4.経営者とリスク

4-1 最大のリスクは自分自身

船の進路は船長次第です。企業は、船長である経営者の性格や性質でその行方が決まることでしょう。ですから、経営の最大のリスクは経営者です。

とはいえ、なくて七癖、どんな人もそれぞれの性格を有しており、それぞれ別のリスクをはらんでいます。

「無鉄砲」な性質なら、人としての魅力と勢いはあるが、思慮不足でジェットコースター経営を繰り返し、あえなく敗退。「優柔不断」な性質なら、リスクを恐がり新しいことに挑戦せず、陳腐化して敗退、「能天気」な性質なら、優秀な社員がいる間は良かったが、社員があきれて退職し敗退・・・

リスクを転じて挑戦となすには、どんな経営者でも「自らを知る」ことが大事です。そのうえで自分を支えてくれる補佐役をつくるべきです。補佐役は人とは限りません。数値でわが社の実態を正確に見せてくれる財務会計、未来を予測する経営シミュレーターも補佐役と言えるのです。

4-2 経営者は未来を創る

経営者の役目は「未来を創ること」にあると私は思います。未来を創るためには、まず、このまま進んだ先の未来を見ることが必要です。ほとんどの場合、その未来は決してバラ色ではありません。

次にその未来のありたい姿を思い描き、実現方法を数字で模索します。その数字を常に監視し、状況に合わせて進路を柔軟に変えていきます。

そのためには、経営者だけが必要とする精度の高い管理ツールが必要です。それが「経営シミュレーター」です。

「財務会計」と「経営シミュレーター」は、助さん格さんのようにして、経営者と未来への道のりを共に歩み続けてくれることでしょう。

4-3 コロナ禍の今だからこそ

コロナ禍でお先真っ暗な状況が続いている現在、多くの経営者は「何とかしなければ。。。悠長なことなどしている余裕はない」と考えます。今を乗り切ることに精いっぱいであることは私にも痛いほどわかります。

しかし過去を思い出してみれば、バブル崩壊、リーマンショック、3.11など、私たちは何度も同じような状況に遭い、何とか乗り切ってきたのです。さらに創業の頃を考えれば、未来は五里霧中、その中で未来予想図を描きながら進んできたのです。

山で道に迷ったときどうするでしょう。むやみに動き回ることはしないはずです。地図を出し、地形を見て現在地を知ろうとします。それから体力や仲間の状況に合わせて、進むルートや方法を考えるはずです。

経営者は、先が見えない時こそ地図を読むことが必要です。つまり数字によるシミュレーションが大いに必要になるのです。コロナ禍はいつか終わりが来ます。その時に、たくましさを増してリカバリーし、成長するために、しっかりと腰を落ち着け未来の設計図を描いていこうではありませんか。

 

 <ダウンロード>

本書PDFファイル、「未来を創る経理」PDFファイル、及び本書で紹介した「バタフライ・シミュレーター」Excelファイルは下記より無償ダウンロードできます。

https://dokusoumura.jp/download/

利用される際は、すべて自己責任のもとに行ってください。また販売目的で利用しないようお願いいたします。

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