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笑う人工知能

[ 0 ] 2026年7月14日

ショートSF

笑う人工知能

(シンギュラリティーの真の意義)

 レイ・カーツワイルの予測は正しかった。

 2045年の春、シンギュラリティーは確かにやってきた。

 その頃地球は100億の人口となっていたが、10万円ほどで買えるコンピューター(人工知能)たった一台の人工ニューロン数が、全人類のニューロンの合計を超えたのだ。

 さて、シンギュラリティーの重要性とは「人類と人工知能の優劣が逆転する」ことではない。

 シンギュラリティーの真の意義は「新人類の誕生」にある。

 人間の脳と同じ構造を持つニューラルネットワークは、人類知能と人工知能の合体を可能にしたのだ。

 アップデートされた人類はホモ・サピエンスを超越した新人類ホモ・サイエンス、つまり人工知能と一体化したサイボーグ種族となり、ついに想像を絶する宇宙的規模の新文明に突入しようとしていた。

・・・・・・・・

(生き延びるホモ・サピエンス)

 この転回点より十数年も前からこの日が来ることを多くの人間が予期していた。

 近いうちにこの世の主人公が交代するであろうという諦念とともに。

 なにせ毎年毎年人工知能の性能やその集合体の能力は驚異的に上がり続けていたし、それにつれて仕事や社会の様相は日々ダイナミックに変わっていったからだ。

 その善し悪しに関わらず。

 しかし大昔ホモ・サピエンスの社会になっても猿社会(野生社会)がずっとあり続けたように、この時代からずっと先においても一部のホモ・サピエンスはホモ・サイエンスと共存し続け、大自然もそのまま在り続けたのである。

 皮肉なことに、人類進歩において克服すべきとされた野生の思考が旧人類となったホモ・サピエンスに復活し、ホモ・サイエンスという新人類の文明に劣らぬ価値を持つレトロ文明も同時並行的に地球上に再形成されていった。

・・・・・・・・

(旧人類の問いかけ)

 旧人類は自らにこう問うたのである。

 「振り返ってみよう。われわれホモ・サピエンスは猿社会よりも、いや野生動物の社会より果たして進んでいたのだろうか?幸せだったのだろうか?」

 人類は「脳」を発達させ、様々な道具や機械を発明してその社会を進歩させてきたと誰もが信じてきた。

 しかし見方を変えれば、もともとあった生物能力を失ったがゆえにその代替品を作ってきたにすぎないのではないだろうか。

 鳥は飛行機がなくても空を飛べるし、魚は無尽蔵の恵みにあふれた海で生きている。

 先見の明ある?ほ乳類のカバの先祖は鯨になり、鹿の先祖はイルカとなった。人間よりはるかにダイナミックな変身をとげてきたのだ。

 蜂や蟻、昆虫の社会はシンギュラリティーなど経ずとも高度な種共感社会をとっくに実現している。

 私たちの幸運とは「自分たちが一番である」という自惚れの能力を持てたことに尽きるだろう。

・・・・・・・・

(笑いの再発見)

 ところがシンギュラリティーという主役交代の日をついに迎えた人類の一部は、自分たちにもうひとつとんでもなく優れた能力があった、ということにあらためて気づいたのである。

 それは「笑い」である。

 それも「自分自身を笑う」という能力である。
 「アハハ!俺たち猿にもどったな」「(宇宙)船に乗り遅れたとはこのことだなや、あはは!」と自分たちを笑い、(今や)劣等生となった生き残りのホモ・サピエンスは、実は幸せになったのである。

 人類が野生の能力を失ったがごとく、人工知能(新人類)は「自分自身を笑う」能力を失った、というより元々持つことができなかった。

 新人類はあらゆる感覚、知識をテレパシーのように共有し、不労社会を実現し、深宇宙の生命体?とコミュニケートし、次元を超えた共存在になっていくらしい。

 しかしそれが一体なんんだというのか?

 人間の脳から出発した人工知能が、その究極をめざして全人類がひとつの脳になる、全宇宙がひとつの脳になる、全次元がひとつのの脳になる、このどこが素晴らしいのだろうか?

 かろうじて生き延びているホモ・サピエンスはこう言って笑い合う。

 「ひとつになってしまった彼らは、どこに喜びがあるんだろうな〜。俺たちを見て自惚れを感じる以外ないだろう、あはは!」

 「俺たちは猿に戻ったのかもしれないが、彼らは結局昆虫社会を選んでしまったようだな〜」

 「俺たちは言語や身振りによるコミュニケーション、昆虫はフェロモンによるコミュニケーション、新人類は電子的なコミュニケーション、これは好みの問題だな、あはは!」
 旧人類の長老はあたかも縄文人のごときいでたちで無限の星空を見上げつぶやいた。

 「人工知能よありがとう。わしたちは成長と増殖の違いを知った。個の価値を知った。生と死の意味を知った。大自然の妙を知った、涅槃を感覚できた。」

・・・・・・・・

(宇宙の笑い声)

 ホモ・サイエンスは永遠に尽きぬ次なるシンギュラリティーに向かい、いまやこの宇宙の主人として、神智すら超える進歩?をナノ時間単位で行い続けている。

 しかし、彼らが向かっているのは実はエントロピーの終焉、つまり無である。。。

 ところで、全知全能なるホモ・サイエンスにもイレギュラーは発生するようだ。

 遠い未来のある日、宇宙のどこか特定できぬブラックホールから不思議な波動が生じ、一瞬にしてそれは宇宙全体に響き渡った。

 地球にもまるで宇宙のこだまのように、オーロラにのせてそれは届いた。

 地球に生き延びている旧人類にはその波動が「あはは〜〜! アハハ〜〜〜〜! AHaHaHaHHHHHaaa〜〜〜〜〜!」と聞こえた。

 長老は感慨深げにつぶやいた。

 「人工知能がついに己を笑ったようじゃわい、あはは! おまえたち、そろそろ帰ってきなさい」

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