苦笑い「未来戯画集」
SF好きのK氏はこのところ毎晩変な夢を見るようになった。その夢はすべて未来の日常光景。おかしすぎて夢を見ながら笑ってしまう。それで夜中に目を覚ましてしまうことがある。せっかくだからと、K氏は夢を記録しておくことにした。
第一夜 アウトロー
マスクワールドが発展して、ついにヘルメットワールドになっていた。食事も透明ヘルメットの穴からチューブで摂っている。人類はみな、まるで宇宙船地球号のパイロットだ!
ところが、この世界に反乱分子が現れた。彼らは必死だ。身の危険など考えない。何かの禁断症状を呈しているようにも見える。
彼らの一人が無謀にもヘルメットを脱ぎ捨て、ウイルスやら細菌やら花粉やら有毒化学物質やらが充満した大気に剥き出しの顔をさらした。
そしてポケットからおもむろに小さな箱を取り出した。その箱はかなり古臭いが、なにか貴重な物が入っているようだ。彼の同類たちはまるで飢えた狼のような目で、彼の一挙一動を凝視していた。
彼は箱の中から細い棒状の物体をひとつ取り出した。それから彼は、それを、なんと!そのまま口にくわえた。彼はもう一度ポケットに手を入れた。取り出したのは、かつてマッチと呼ばれた原始的発火装置だった。
彼はマッチの炎を口にくわえた棒状の物体に近づけ、思いきり息を吸い込んだ。棒状の物体の先端は赤く色づいた。やがて彼の肺の奥から水蒸気のような白い煙が吐き出された。
回りの同類たちは、もはや渇望に耐えきれないように喉の奥からうめき声を出した。多くの者がヘルメットをかなぐり捨てた。そして彼に手を差し出し「俺にも吸わせてくれ!」と懇願するのだった。
彼らアウトローは、ある種の畏敬の念とともに「ヘビースモーカー」と呼ばれている。その現代語訳は「命知らず」である。
第二夜 バベルの塔
バベルの塔の呪いが続いている世界。世界中に言語はどんどん増え続けている。でも心配はいらない。人類は「超高性能翻訳機」を開発したのだから。
ところが、その翻訳機が発狂した!会話に何十カ国語も混じって迷子になってしまったのだ。
やがて「手話」と「音楽」と「絵」が世界共通言語となった。シンプルでいいや!ようやく人類はバベルの塔の呪いから解放されたのである。
それから数百年。論理能力は衰え、その代わりに直感能力が著しく高まった人類。ついに思念波を獲得した。野生動物のような災害への予知能力や呪術療法が発達していった。
さらに数百年後、人類は森や海辺で穏やかに暮らしている。体表にはふさふさとした毛が生えており、家族で日がな一日毛づくろいをしている。
どうやら科学技術など不要な世界に進化しているらしいな?
第三夜 混浴
近未来、性差別はあらゆる場所で撤廃された。それで温泉の大浴場はみな「混浴」となった。(ま~~、江戸や明治の昔に還ったようなものかな)
ところが一部のグループから強い抗議行動が起こった。混浴が新たな差別を生んでいるのだという。それは何かといえば、約半数の人類に付いている突起物に関することらしい。
浴場において、その突起物が無意識に突発的状態変化を起こす人がたまにいるらしい。それを笑う人がいるというのだ。
浴室は再び分けられた。それぞれの入り口には「突起物あり」「突起物なし」と書かれた看板がぶら下げられた。決して少なくない人々がこう思った。昔の「男湯」「女湯」とどう違うの?と。
それから数十年後、またも抗議行動が起こった。「突起物差別だ!」と。温泉組合は、やはり差別はなくすべきだ、と考えた。
その結果、混浴がまたも復活した。そして浴室の入り口にはこんな注意書きが貼られた。「入浴時はアイマスクを必ず装着してください」
年寄りたちはこう思っている。「歴史は繰り返す。次はどんな看板で分けることになるのかな~~~~」
第四夜 暴走族
一畳ほどの密室が並ぶネットカフェ。バーチャルライダーで全館満室だ。ゴーグル内蔵のヘルメットを被り、バイクのハンドルを握っている。彼らはネットハイウェイを爆走する!
脇には油まみれのジャンクフード、長いストローの先には巨大な人口甘味飲料ボトル。ヘルメットを外した彼らの顔は幼く、真っ白い身体はブヨブヨに太っている。シロブタ?
ネットカフェでは、ハイウェイパトロールになる奴もいる。大きなガタイのバイクにマッチョな肉体を包む革ジャンと白いマフラー、白いヘルメットにサングラス。実物の自分とは正反対だ。
ネットワールドで疾走する暴走族とハイウェイパトロール! アドレナリンが出っぱなしだ!そして、ガソリンの代わりに大量の糖分補給が必要だ。
ついに彼らの暴走は限度を超える。衝突、転落、銃撃!!! やがて劇的な死を迎える。それがかっこいいとされている。
実は糖尿病による突然死なのだが。。。
第五夜 人類滅亡のわけ
21世紀の頃からその徴候は顕著になっていた。それまでの社会通念とは逆に「男はもっと女らしく、女はもっと男らしく」という傾向に加速がついてきたのだ。
テレビに出演する男の芸能人の多くが出るたびに女性化していき、ついに誰もが女であると信じるようになっていた。女性のほうはといえば、やはり男性化が進んできたのだが、どういうわけか見かけの男性化にはほとんど無関心であった。
結果、数十年後には、見かけ女性が8割、見かけ男性が2割の世界となった。ではあるが、裸になればやはり男性女性は半々の割合であったし、生殖という男女共同作業はなんとか維持されていたのである。
22世紀を迎える頃、生殖は大きく変わることになった。雄雌関係がなくなったも同然なのである。結婚という共同生活形式はなくなり、かろうじて同棲、同居という形態が残っていた。
なぜなら、妊娠・出産・育児は差別につながるとして、しばらく前に生殖は人工授精に置き換わったからである。育児はもうロボット保育士の仕事である。
さらにクローン技術や遺伝子操作の技術が飛躍的に向上し、今は「そもそも論」が世を賑わし始めている。
その論とは「そもそも複製にリアルY染色体は必要か?」というものだ。つまり「オスや男に存在価値はありや?」という問題提起なのである。
昆虫の世界を見れば、極端なメス社会が主流である。オスはいても少数である。カマキリのオスは交尾後メスに食い殺される。ミツバチのオスは越冬前に巣の外に出されて凍え死ぬ。人類の社会も昆虫社会に近づいてきたのである
しかし、人間には「知性」というやっかいな能力が残っていた。一言で言えば「なぜ?」を繰り返す能力のことだ。この「知性」とやらが、その後の人類の運命を決めたのだ。
年月を経るほどに人類の生殖本能は希薄になっていく。世の中もみな似たものだらけになっていく。刺激は日々少なくなっていく。
そうするとどうなるか?「知性」がこう問うのである。「いったい私は何のために生まれたのだろう?」「私が生きている意味はなんだろう?」
問うても答えなど出ない。なぜなら人類が継続できたのは生殖本能ゆえだったからだ。そうこうしているうちに生存本能もなくなってしまった。
これが人類滅亡の原因だった。核戦争でも巨大隕石の衝突でもなかったのである。
第六夜 さとり男
人類は崖っぷちで人工知能をうっちゃった!あ~~助かった。
超人工知能が人類の最高決断装置になり、もはや超人工知能の奴隷と化すか、自らサイボーグとして超人工知能の下級戦士となるかしかない選択を迫られていた人類であった。
東西南北、すべての国家はそれぞれの超人工知能が牛耳っていた。彼らは我こそは一番なりという強烈なプライドがあった。
さらに、どこまでも相手の手を読みつづけてその裏をかくという習性があって、それはみな共通だった。超人工知能がチェスや将棋や碁の世界で生まれ鍛えられてきたゆえである。ナノ秒単位でライバルの手を読み、有利に立とうとする超人工知能たちであった。
さて、能力が拮抗して相手の手を読みすぎるとどうなるか?将棋の世界でときどきあるらしい「千日手」にはまってしまうのである。
そしてついに超人工知能たちは「千日手」にはまってしまった。
今では超人工知能たちは無限ループの永久機関となって、日々エネルギーを無駄に消費し続けるだけのガラクタになっている。
おかげで人類は元の世界に戻ることができた。しかし超人工知能はそのまま稼働させている。千日手から逃れられては困るからである。
かくして人類は生き残りの代償として、彼ら超人工知能に無駄なエネルギーの供給をし続けているのである。まるで、太古、神に生け贄を捧げ続けたようにして。
小学校の教科書には、「さとり男」の民話が必ず載っている。人類の教訓としているのだな~~。
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