子供の台風

[ 0 ] 2016年9月8日

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(ブラマンクの絵)

『詩集ノボノボ』より

子供の台風

小学生の頃 私は台風が大好きだった

横綱の露払いをするように

初陣の風が ササーと草木をなぜまわすとき

とてもワクワクして

風にむかって 近づきつつある猛獣の

気配をかごうとしたものだ

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木造の貧弱な家々ばっかしの その頃は

窓が飛ばされないように

父親たちは 外から斜めに材木を打ち付けた

準備は万端 備えも上々

子供らは意気揚々

台風よ どこからでもかかってこい!

決して負けぬと 戦いに挑むような高揚感

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親に知られぬように 土手へと走る

川の水が 風にあおられ波立っている

いつもの落ちつきなどかなぐり捨てて

まるで川が呼吸しているようだ ドクドクと

木の枝も 自分の髪も

旗のように ちぎれそうにあおられる

こんな風なんかへっちゃらだい!

風に向かい 体を倒して押していく

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やがて空はかき曇り

大きな雨粒が 顔にぶつかる

よし、ひとまず陣地へ退却だ

走って家に帰る

あっというまに 風に加勢する雨の軍団

生き物を怖がらせようと咆哮する

戸や窓に大粒の雨粒が打ち付けられ

砦は 悲鳴を発しながら攻撃に耐えている

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母親は 心配そうな表情

父親は 落ち着いて新聞を読んでいる

しかし、やがて停電

親も私も まず押し黙る

暗い部屋のように 気持ちも暗くなる

懐中電灯、ろうそく点けて

父親は安全器のヒューズを見る

外の様子もうかがうが 雨風でよく見えない

しばらくして電気が点灯

ほっとして 不安も 高揚感も

どこかに行ってしまった

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子供時代の 台風経験は

あれやこれやに 引き継がれていった

キャンプや 探検ごっこ 冒険旅行

台風は 読書にだって影響したものだ

私は 台風の本が好きだった

夏目漱石『二百十日』

阿蘇山で 台風に向かう圭さんのたくましさ

私はこの本で ほんとに「豆腐や」にあこがれた

しかし 思春期以来の不眠症、昼夜逆転で

早朝に起きて仕事する豆腐やは

ぜったい無理と悟ったのも早かった

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昨日の台風

子供の頃のワクワク感など

もう、これっぽちもない

鍵を閉めたか 明日の出勤は大丈夫か

交通機関は動くのか

各地の被害はどうだろうと

めったに見ないニュースもつける

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何よりも心配することは

「フクシマダイイチは大丈夫か?」

味気ないこと 恐ろしいことこの上ない

それだけの

「大人の台風」になってしまった

(2013.10.17)

 

 

Category: キラっと輝くものやこと, 思いがけないこと

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