大人の童話「一番暖かい服」

[ 0 ] 2020年6月7日

douwa

ノボノボ童話集より

一番暖かい服

ここはアメリカの大都会。

超高層ビルの谷間にはスラム街がある。

今年の冬は例年よりも厳しい寒さ。

それに不景気が追い打ちをかけて、

貧しき人々は涙さえ凍るようだった。

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ダイナミックなこの都市は、

コントラストを強調するかのように、

スラム街の隣には高級店。

ところが人も店も案外見かけによらぬもの。

どの店も不況で売上げを落としていた。

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この服屋さんもそのひとつだった。

なんとか売上げを伸ばそうと、

リフォームをしたり、商品を増やしたり。

だが、なかなか思うようにはいかない。

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さて、大変な寒波にスラム街は震えていた。

困窮きわまった住民はついに暴動をおこした。

夜中、大挙して隣接する高級店を襲った。

もちろん服屋さんも大きな被害に遭った。

高級な毛皮やダウンジャケットなど、

ほとんどの商品が盗まれてしまった。

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店主たちは地団駄を踏み、警察に訴えた。

彼らをつかまえ罰しよう、弁償させようと

必死になった。

しかし、食料品はもう食べられ、

宝石類は隠されたりで、

どうにもならない。

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そんな中、服屋さんはあることを思った。

彼の祖父はポーランドからの移民である。

祖父から先の戦争の悲惨を聞いている。

かつての祖父もこのような境遇にあったのでは?

生きるためにやむを得ず犯した犯罪について、

彼は少しばかり同情を感じたのだった。

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さらに考えてみた。

盗まれた商品はほとんど戻らないだろう。

戻ったとしても、もう新品としては売れない。

汚されていたらクリーニング代も大変だ。

こうなったらあきらめるほうがいい。

とはいえ、少し悔しいのであることを考えた。

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彼は翌日、店に大きなポスターを張り出した。

「当店では昨晩、寒さに震える近隣の皆様のために、

 すべての商品を無償提供いたしました」

彼としてはちょっとした皮肉のつもりだった。

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ポスターを見てスラム街の住民は驚いた。

そして心から感謝した。

盗んだ毛皮やダウンジャケットを

隠すことなく、堂々と着られるのだ。

子供たちも犯罪者の子にならなくて済むのだ。

これほど暖かい配慮はあるだろうかと、

隠れて涙を流す人も多かった。

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スラムの住民たちは彼に恩返しをした。

彼らはネットにこのポスターをアップした。

服屋さんの粋な配慮を

「世界で一番暖かい服」として

全世界の皆に知らせた。

この服屋さんがその後どうなったか、

話すまでもないだろう。

Category: キラっと輝くものやこと, ほっこりすること

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