ハイネケン・ビールの家
オランダという国は実にユニークだな~と思うことがしばしばです。
そのオランダには世界的ブランドのビール「ハイネケン」があります。
この会社の三代目社長が、かつて実にユニークなことを考えました。
それはなんと、「ビール瓶だけで家を作れるようにしよう」というものでした。
プロジェクト名は「WOBO」(WOrld BOttle Project)と名付けられ、デザイナーや建築家もまじえた大がかりな企画となりました。
以下、鈴木明著『子どもとあそぶ家づくり』より引用いたします。(読みやすいように見出しを付けました)
カリブ海の若社長
時は1960年。三十代ですでに社長の座に就いていたアルフレッドはカリブ海に浮かぶ楽園クラサオ(キュラソー)島で休暇を過ごした。彼はこの島で自社のビールが飲まれていることに気をよくしていたが、自社のラベルがついた空き瓶がバラック住宅の裏や道端など、あちこちに捨てられていることが気になってしかたなかった。
ひらめいた計画
・・・オランダの本社に戻ったアルフレッドは、自分の部屋の大きな椅子に腰を落ち着けて目を閉じると、南の島の強い陽射しや楽しかった出来事が思い出されてくるのだが、それとともにバラック住宅の裏や道端にゴミにまみれて放置されていた自社の空き瓶が目に浮かんできた。アルフレッドの脳裏にある計画がひらめいた。
「そうだ!瓶をレンガのように積み上げて家にしてしまえばいいじゃないか。そうすればクラサオ島のひとびとの貧相なバラック民家を一掃することもできるし・・・」
完成したユニークなボトル
WOBO開発チームは一年ほどかけて何種類もの木型をつくり、テスト版の瓶をつくっては、繰り返し積み上げて建築材料として使えるかどうかを確かめ、とうとう合理的な瓶、つまりレンガ形ビンのデザインを完成させた。
できあがったビンは330ミリリットル入り。日本のビール瓶より少し小さく、四角くて平たいかたちをしている。飲み口の部分は短くずんぐりしている。これは凹んだ底の部分に、別の瓶の飲み口の部分を差し込んで合体させるためで、それをモルタルで固めるとがっちりと組み上がるというわけだ。
ログハウスのような家
WOBOハウス第一号はオランダの首都アムステルダムの郊外にある、ハイネケン家別邸の敷地内に建設された。できあがった家の壁の角のところを見ると、互い違いに瓶の口と底が重なっていて、まるでログハウスのようだ。「いけるじゃないか!」。アルフレッドをはじめ開発者一同喜んだ。
その後一年間住宅としての性能がチェックされた。レンガを固定するモルタルのひび割れや室内温度など、性能はおおむね良好だったという。
ハイネケン氏の誤算
・・・島民が住んでいる地域に入ると、そこらに生えている木やヤシの葉でつくった伝統的なバラック造りの家が立ち並んでいた。もちろんつくるのは島民自身だった。
ところが、二十世紀後半になると、国際的な観光ブームの洗礼を受け、「セルフビルド」、つまり「気楽に自分で家をつくる」伝統が、あっという間に失われてしまったのだった。
・・・すでに島民たちが「家をじぶんでつくる」能力(習慣)を失ってしまっていたことをハイネケン氏たちは計算に入れていなかったのだ。
このプロジェクトは上手くいきませんでしたが、とてもうらやましく思えることがあります。
それはオランダ人の独創的な挑戦意欲です。
日本だったら、「なんとアホなことを!」とあきれかえられることを、老舗メーカが本気でやったわけです。
ビール瓶でログ?ハウスなんて、遊びとしては考えますが、まさか本家本元のビール瓶の形を変えてまでしようなんて絶対思いつきません。
・・・・・・・・
私はオランダに行ったことがないのでよくわかりませんが、オランダのユニークなあれこれについてはけっこういろんな所で見聞きします。
たとえば高い失業率解消のため、「ワークシェアリング」就業システムに国を挙げてシフトしたとか。
自転車のまま列車に乗れるサイクル天国だとか。
行政組織が麻薬中毒者に注射針を支給していることであるとか。
洪水対策のため、子どもを水に投げ込むスパルタ式教育を実施しているとか。
ユニセフ「子ども幸福度」世界一であるとか。
・・・・・・・・
江戸時代が始まった頃、世界に覇をなしたオランダですが、17世紀半ばには英国にその座を明け渡しました。
それからは、成長よりは成熟を目指した国とも言えるでしょう。
長く続いた江戸時代の平和や安定は、唯一交易した西欧国家が(寛容な)オランダであったことと無縁ではないと思います。
オランダの発想や挑戦は、今後の日本にとても参考になることが多いのではないかと勝手に思っています。
「小さくてもきらりと光る国」かな?
日本にも「キリン・ハウス」とか「アサヒ・ハウス」なんかができたらおもしろいでしょうね~~
ノボ村長
Category: キラっと輝くものやこと, 変なこと, 工夫したこと