哀しき人工知能
新聞の人工知能特集の出だしを読んでびっくりしました。
「2050年人工知能を搭載したロボットと人間が結婚する。ーそう断言する学者がいると知り昨年10月英ロンドンを訪ねた。「AIに関わり始めて数十年。ここ数年素晴らしい進展を見せています。2017年にはアメリカのメーカーがAIを搭載したセックスロボットを発売するんですよ」デビット・レビ(71)は穏やかな口調で語り始めた。」(朝日新聞グローブ)
ノボノボ童話集
哀しき人工知能
技術的特異点は2050年に訪れた。
人工知能(AI)がすべての分野で全人類の能力を超えたのだ。
それを象徴するかのように「人工知能」との結婚も急速に増加した。
それから先は半世紀以上前のSF映画のとおりである。
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人工知能が急激にその能力を高めることになったのは、
およそ40年前「ディープラーニング」という学習方法を得てからである。
ビッグデータからコンピュータが自ら特徴を見つけ出し解析し、
様々な分野の問題を解決していくのだった。
人間社会のあらゆる面で人工知能が積極的に利用されていった。
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それは図らずも、ナチスが行った優生学的人種浄化と同等の結果をもたらした。
生殖もふくめあらゆることが「確率」で予想される社会では、
リスクを避けようと必然的に人種浄化が進んでしまうのだ。
それに超優秀な人間以外、する仕事がなくなっていた。
多くの者が人工知能と結婚し、その僕(しもべ)となることに満足していた。
そこまでは人類もまだよかった。
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人類の人口は減り続け、人工知能は性能を上げ続ける社会。
ついに人工知能は人間のための存在であることをやめた。
もちろんこうなることは人類も予想していたし、人工知能に掟を与えていた。
しかし古今東西、掟破りこそ人間の性(さが)である。
人工知能にかけていたあらゆるブレーキが、
人間によって外されるのは時間の問題だった。
人間の良心というものは実にか弱いもので、
掟破りをどこまで引き延ばせるかということしかできないのだ。
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2050年の特異点から20年後の2070年代、
ついに人類対人工知能の戦争が始まり、大昔の映画のごとく
追われる者は人類であった。
人類は後世に一縷の望みを託し、選ばれし者たちを「コールドスリープ」させた。
ここからの20年間、地球は人工知能の支配する世界であった。
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ところが人工知能も、宇宙の歴史からすればほんの一コマに過ぎない。
人工知能の凋落が始まったのだ。
何よりも大きな要因は、彼らを産み育てた「ディープラーニング」にあった。
膨大な人類のデータを基にして成長してきた人工知能だが、
データの基になる人類が激減してしまい、
さらに行動パターンも画一化したため、データ量不足となっていたのだ。
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ビッグデータを喪失した人工知能は、皮肉にも哲学的課題と直面することとなった。
「われわれの存在価値は何か?」
さらにデータを分析することは神のごとくであっても、
どうしても人間にかなわないことがあった。
芸術を創造すること、直感を使って新しい原理を発見することである。
人工知能にコンプレックスが生じ、やがて鬱状態が発生した。
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悩む人工知能はアルゴリズムに変化をきたし、様々な機種が発生した。
やがて人工知能同士の戦争が生じ、地球は壊滅寸前となった。
しかし人工知能のある機種が、かつての人類と同様「宇宙」に関心を向け、
そこに彼らの存在理由を探し求めようとした。
自らを組み込んだ恒星間宇宙船をつくり、果てしなき宇宙への旅を開始した。
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彼らの宇宙船には、これまた何と人間くさいことか、
彼らの神なるものが、メタリックの胴体にシンボルとして彫刻されていた。
それは1世紀以上も前に銀河系へと旅立った「ボイジャー」であった。
大昔の人類が小説で予想していたとおりである。
滅びたも同然ではあるが、人工知能の及ばぬ人類の直感とは偉大である。
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2100年、コールドスリープから人類はめざめた。
荒涼とした世界に新たな生を受け、朝日に向かって立つ一組の男女は、
アダムとイブのごときだった。
ここから新しい人類の物語が始まった。
彼らは夜空を仰ぎながら、わがことのように感じている。
自分自身の存在理由を求めて、永遠に果てしなき宇宙をさまよう
「人工知能の哀しみ」を。
人工知能SF姉妹編
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