仏陀になった研究者
偶然通りかかった古本屋さんで買った本『ゴータマ・ブッダ(釈尊の生涯)』を読んでいます。
堅い本なのにお釈迦さまの人柄が生き生きと浮かび上がってきます。
そのわけは著者中村元(はじめ)氏のお人柄にありました。
小さい頃から寝る前の儀式のように本を開くのですが、最近は数ページで眠り薬のように効いてきます。
きっと朝から晩までチョコチョコ続く「ネット疲れ」が影響しているのでしょう。
ですから(まともな)本を読み終えるのに、だいたい平均2-3ヶ月もかかっています。。。
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さて『ゴータマ・ブッダ(釈尊の生涯)』ですが、数ページづつ読んでいるとはいえ、毎晩とても満足させられます。
ページを繰るたびに、お釈迦さまのお人柄や当時の社会情勢などをありありと想像させられます。
お釈迦さまが「仏」という特別な存在でなく、私たちと同じとても身近な人に感じられます。
読み終えたら、その感想を『素顔のお釈迦さま』というタイトルでブログに書こうと思っていました。
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ところが数日前、ネットで偶然著者中村元(はじめ)氏の貴重なエピソードを知ることになりました。
とても感動しました!
この研究者、この著者なればこそ、お釈迦さまをこのように生き生きと描くことができるのだと。
中村元(インド哲学者・1999年没)の有名なエピソード。
20年かけて執筆した『佛教語大辞典』の原稿をある出版社が紛失してしまったが、中村さんは怒りもせずに8年かけて書き直し、別の出版社・東京書籍から刊行した。その境地には感服するが、脱帽すべきは紛失した出版社名を終生明かさなかったことだ。
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実は『ゴータマ・ブッダ(釈尊の生涯)』の文中で、お釈迦さまにもこれに近いエピソードがあったことを思い出したのです。
「第八章 最後の旅」より
ゴータマ・ブッダは思いやりの深い人であった。チュンダのささげた食物によって釈尊は中毒したのであるから、『誰かが鍛冶工チュンダに後悔の心を起こさせるかもしれない。』と思って、かれに心配させないように次のように言え、と伝えさせた。ーー「二つの供養の食物に最上の功徳がある。それは、さとりを開いた直後に供養された食物と、チュンダが供養した食物とである。」と。みずからは苦痛に悩みながらも、チュンダのことを気づかっていたのである。チュンダをかばう思いやりが見られる。
(鍛冶工チュンダが托鉢で与えた食物とは、一般に豚肉と言われていましたが、中村元氏はこの本で「(豚肉のように柔らかい)有毒のキノコ」の可能性が高いと書いておられます)
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20年も心血を注いだ辞典の原稿は、中村元氏にとって自らの命に等しいものであったことでしょう。
それが紛失してしまったという絶望的な状況は、たとえば20年かけて営々と開拓してきた田畑を一夜にして失うと同等以上のものでしょう。
なのに、致命的な間違いをした人も出版社も何ら責めることなく、しかもその秘密を一生明かさなかったということは「思いやり」という言葉ではとても足りません。
「仏心」と言ったほうが近いでしょう。
中村元氏は一生を原始仏教の研究に捧げました。
氏の行動は、その始祖であるお釈迦さまの臨終の場面となんとそっくりなことでしょう。
私は思いました。
真の研究者とは、評論家でも伝記作者でもなく、惚れ込んだその人の「人格そのものになった人」を言うのだと。
そして中村元氏こそゴータマ・ブッダの時空を超えた十一番目の大弟子に相違ないと思えるようになりました。
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氏の優しいお人柄は翻訳にも顕れているようです。
wikipediaより
サンスクリット語・パーリ語に精通し、仏典などの解説や翻訳に代表される著作は多数にのぼる。「生きる指針を提示するのも学者の仕事」が持論で、訳書に極力やさしい言葉を使うことでも知られた。その最も端的な例として、サンスクリットのニルヴァーナ(Nirv〓ṇa)およびパーリ語のニッバーナ(Nibb〓na)を「涅槃」と訳さず「安らぎ」と訳したことがあげられる。訳注において「ここでいうニルヴァーナは後代の教義学者たちの言うようなうるさいものではなくて、心の安らぎ、心の平和によって得られる楽しい境地というほどの意味であろう。」としている。
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お釈迦さまの心というものは、決して到達不可能な高いところにあるのではなく、私たちの身のまわりにもたくさんあるのだろうな~と感じられます。
いや、きっとどんな人の心にもあるのだろうな~~。
それをお釈迦さまや中村元氏のように行動で表せるようになるためには、いったい何がどれだけどのように必要なのでしょうか。
『ゴータマ・ブッダ(釈尊の生涯)』を読みながら、そのほんの一端でも垣間見ることができれば、と思っています。
この現代社会でも、きっとどこかにいそうな、とてもナイーブで心やさしいお釈迦さまのエピソード、いつかまた書き記しておきたいなと思っています。
by nobo
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