ゲーテ 「独創性について」
ゲーテは自分だけで生み出す独創はありえないと語りました。それではいったい「独創性」とは何をいうのでしょうか?
「ゲーテの深い言葉」第8話を書きました。
「独創」とは、今までになかったものや価値を、独力で生み出すことと思っていました。
しかし、ゲーテはこのように語りました。
岩波文庫『ゲーテとの対話』上巻p241
1825年5月12日「独創性ということがよくいわれるが、それは何を意味しているのだろう!
われわれが生まれ落ちるとまもなく、世界はわれわれに影響をあたえはじめ、死ぬまでそれがつづくのだ。
いつだってそうだよ。一体われわれ自身のものとよぶことができるようなものが、エネルギーと力と意欲の他にあるのだろうか!
私が偉大な先輩や同時代人に恩恵を蒙っているものの名を一つひとつあげれば、後に残るものはいくらもあるまい。」
(「エネルギー」と「力」の区別は難しいですが、私はこんなふうに理解しました。たとえれば、エネルギーは地中にある石油で、力はそれを汲み上げるポンプ、意欲はポンプのスイッチではないのかなと)
ゲーテはさらに次のようにも語っています。
ゲーテはつづけた。「芸術には、すべてを通じて血統というものがある。巨匠をみれば、つねに、その巨匠が先人の長所を利用していて、そのことが彼を偉大にしているのだ、ということがわかる。
ラファエロのような人たちが土台からすぐ生い育つのじゃない。ちゃんと、古代および、彼ら以前につくられた最上のものの上に立脚しているのだ。
その時代の長所を利用しなかったら、彼らがたいしたものになるわけがない。」
ゲーテのいうとおり「独創性」が「エネルギーと力と意欲」であるとするなら、独創性とは「生み出す人」について語られる言葉でしょう。
自らもそうであるゲーテが、その秘密をあかしたときがありました。
岩波文庫『ゲーテとの対話』下巻p248
1828年3月11日「そういう人びとは」とゲーテはこたえた。「天才的な人物で、それには特別の事情があるのさ。ほかの人びとには青春は一回しかないが、この人びとには、反復する思春期があるのだね。」
なるほど、一生涯をとおして恋多き人であったゲーテならではの洞察です。
さらに、人が持つ独創性だけでは独創は生まれない、ということも語っています。
「そうとも」とゲーテはいった。「対象より重要なものがあるかね。対象をぬきにしてテクニックをどんなに論じてみてもしようがない!
対象がだめなら、どんな才能だって無駄さ。近代の芸術がみな停滞しているのも、まさに近代の芸術家に、品位ある対象が欠けているからだよ。
そのことでわれわれもみな悩んでいる。私だって自分の近代性ということを否定できはしないからね。
このような言葉が、自然に親しみ崇敬し、鉱物、植物、色彩などについて専門的に研究したゲーテならではの客観的な視野を感じさせるところです。
技術におぼれる軽薄な自己陶酔を戒めているようです。
ゲーテの魅力は、「歴史」「自然」「人間」を一体として総合的に観ているところにあるのだな〜、だから深くて広いんだ!と少しづつわかってきました。
参考→「ゲゲゲのゲーテ」より抜粋
→ゲーテ「趣味について」
→ゲーテ「わが悔やまれし人生行路」
→ゲーテ「嫌な人ともつきあう」
→ゲーテ「相手を否定しない」
→ゲーテの本を何ゆえ戦地に?
→ゲーテ「私の作品は一握りの人たちのためにある」
→ゲーテ「好機の到来を待つ」
→ゲーテ「独創性について」
→ゲーテ「詩人は人間及び市民として祖国を愛する」
→ゲーテ「若きウェルテルの悩み」より抜き書き
→ゲーテ「自由とは不思議なものだ」
→ゲーテ「使い尽くすことのない資本をつくる」
→「経済人」としてのゲーテ
→ゲーテ「対象より重要なものがあるかね」
→ゲーテ「想像力とは空想することではない」
→ゲーテ「薪が燃えるのは燃える要素を持っているからだ」
→ゲーテ「人は年をとるほど賢明になっていくわけではない」
→ゲーテ「自然には人間が近づきえないものがある」
→ゲーテ「文学作品は知性で理解し難いほどすぐれている」
→ゲーテ「他人の言葉を自分の言葉にしてよい」
→ゲーテ「同時代、同業の人から学ぶ必要はない」
→ゲーテ「自分の幸福をまず築かねばならない」
→ゲーテ「個人的自由という幸福」」
→ゲーテ「喜びがあってこそ人は学ぶ」
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