ちぢんだ自転車
毎年6月頃に幼なじみの同級生が集まります。
今年は、私と仲間の(怪しい?)アジト「D-MURA」で乾杯です。
宴もたけなわの頃、またも47年前のこの話で盛り上がりました。
写真の右手前(私)、その奥、左の奥と左の奥から3人目の四人が、このお笑いノンフィクションの登場人物です。
ちぢんだ自転車
高校一年生になったわれわれは、まるで「スタンド・バイ・ミー」だった。
「ひと夏の冒険」に出かけたのだ。
四人の幼なじみがママチャリで、青森県は十和田湖へと。(片道400キロくらい)
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いっしょの旅仲間は、幼稚園から高校まで、一人とは大学まで一緒だった。
(大学といっても、私はいろんな事情で一年もしないうちにやめてしまったが)
高校生になって初めての夏休み!冒険心が騒ぐ。
同じ中学出身の別なグループは秋田の田沢湖へサイクリングに行くという。
「んだらば、俺だづ十和田湖しかねーべや」ということになった。
自転車はママチャリみたいな変速機がないものしかない。
ま~自転車に変わりない。「よし、行ぐべ!」
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四人のうち、一人はその頃「よく肥えて」いた。
家が金持ちだったので、彼だけは最新鋭のオイルブレーキ付の変速自転車を買ってもらった。
もう一人は自転車がないので友達から古いのを借りてきた。
テントから缶詰から固形燃料から、一人三十キロ以上も積んで出発した。
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登り坂がこんなに大変なものかと、みんなすぐに知ることとなった。
それと借りてきた自転車が毎日パンク。
毎日自転車屋さんごっこだった。
それでも、なんとか一日八、九十キロくらい走り、毎日ぶっつけ本番で公民館とか消防署とかに泊めてもらった。
われわれのいでたちやら、走行距離の少なさをみて、本式のサイクリストたちはアゼンとしていたものだ。
青森県五戸(ごのへ)の消防署では道路に固形燃料をセットしてご飯炊き。
近所の人たちがあきれたように窓から眺めていた。
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さて四日目、十和田湖町に入る。
天候は霧雨、長~い下り坂だ!びゅんびゅん気持ちいい!
この坂の登りで、最新鋭自転車の仲間だけずいぶん遅れてしまっていた。
坂道を飛ばす私たちに、後ろから来た大型トラックの運ちゃんがスピードをゆるめて話しかけてきた。
「後ろで自転車が車に衝突したようだぞ、あんた達の仲間でないのか?」
私たちは血の気が引いたようになって、すぐ引き返した。
登り坂をたぶん一キロくらい。
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道路に無人の大型ダンプが停まっていた。
その後ろに同級生がいた。
無事立っているようだし、自転車もわきにある。
「良かった!たいしたことなかったんだ!」
急いで同級生のそばへ走り、「ほっとしたぞ!死んだかと思ったや」
同級生は何も言わない。
変だなと思って彼の最新鋭自転車をみると・・・
なんと・・・長さが三十センチくらいちぢんでいたのだ!!
彼は停まっていたダンプカーに自ら追突していったのだった。(「追突した」のではない)
最新鋭のオイルブレーキが、雨にぬれたためか効かなかったらしい。
彼曰く「まるで映画見ているようだったな~」
こんな時にあきれてしまう。
カスリ傷くらいだったのは奇跡的だった。
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あと半日で目的地の十和田湖だった。
ここで会議が始まった。
一番体力と意欲のあった同級生が言う。
「何とか行きたいな~、もう少しだしな~」
私はこう言った。「一人を残して行けるはずない。悔しいけど、ここで引き返すべきじゃないか」
一見かっこいい!(でも実は・・・)
結局、ちぢんだ自転車、しかも三十キロちかい荷物を付けた自転車をみんなでしょったりしながら、約十キロくらい(かな?)歩いて五戸の消防署へまた戻ったのだった。
もう夕方だった。
その日、五戸は夏祭り。
夜はみんなで祭りを見学した。
自転車は駅から三八五運送のトラック便で送り、翌日われわれも汽車で帰った。
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中年オヤジになってからこの話が飲み会で出た。
最後まで十和田湖行きにこだわった同級生が私をほめる。
「あのとき、カワをホントに偉いと思った。引き返すべきだと強く主張するのはとても勇気がいることだ」
私は内心恥ずかしかった。
(心の声:実は、あのとき俺はとっても疲れてて、十和田湖なんかどうでもいいや、早く自転車降りたいとだけ思ってた。そこに、ワタリにフネみたいなことになったんだ・・・)
でも、彼にはこういった。
「いやそうでもないよ。あたりまえだっちゃ・・・」
何という偽善者の私か。そして何という良き親友か。。。
この冒険でご飯を炊いたクライマークッカーというコッフェルは、いまだにみんなが持っているらしい。
by nobo
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